【後編】JICA国際協力専門員 相川次郎氏インタビュー~相川氏とSAAとの関わり~

2023年6月30日
相川氏(左奥)インタビューの様子@SAA東京事務所
相川氏(左奥)インタビューの様子@SAA東京事務所

『JICAの国際協力専門員 相川次郎氏にインタビュー【後編】』では、相川氏とササカワ・アフリカ財団(SAA)の関わりについてお話を伺いました。2022年3月よりSAAの評議員を務めていただいていますが、相川氏とSAAのつながりは、20年以上前にさかのぼります。当時、そして現在のSAAを知る相川氏に、お話を伺いました。

相川氏とSAAタンザニアプロジェクト

SAA相川さんは、SAAの職員として、タンザニアのプロジェクトに携われた経験があると聞いています。当時、相川さんが携わっていたプロジェクトについて教えてください。

相川:私がSAA(当時の笹川アフリカ協会)に入職したのが2001年2月で、当時のSAAは、アフリカ9カ国で事業を展開していました。タンザニアでもすでに活動が展開されていましたが、新たに世界銀行の農業普及プロジェクト「Participatory Agricultural Development and Empowerment Project:PADEP」の技術アドバイザーをSG2000*が担うことになり、事務所長 兼 農業技術普及専門家として私がタンザニアに赴任しました。

タンザニアの小規模農家に改良種子と肥料の貸し付けを行い、メイズ(とうもろこし)の増収やマメ科の輪作の技術指導を3年4か月行いました。SAAのベナン事務所長がマメ科の輪作に取り組んでいて、SAAスタッフが揃うリトリートの機会などを使って、勉強させてもらいながらやりました。現地事務所の裁量で、貸付スキームの構築、正条植え、ToT(Training of Trainers)、肥料・種、普及員の重要性などの普及に取り組みました。

* SG2000(笹川グローバル2000)・・・笹川アフリカ協会(SAA)が、カーター・センターの「グローバル2000プログラム」と協力関係を結び、サブサハラ・アフリカにおける食糧不足緩和のために立ち上げた農業普及プログラム。

SAA相川さんがタンザニアにいらっしゃったときのSAAは、東京本部が事業に果たす役割はかなり小さく、人数も数名で、アフリカ現地事務所に大きな裁量がありました。一方、現在の東京本部は職員が14名まで増え、役割が大きく変化しています。この状況をどのように見られていますか?

相川:東京本部は現地の状況をよく把握し、舞台裏をしっかり支えてほしいと思います。アフリカで活動する各国事務所はそれぞれ得意分野に濃淡があると思います。東京本部は、各国事務所の得意・不得意を十分に把握し、出てきた成果を承認・評価し、カイゼンのフィードバックをするというサイクルをしっかり回していくことが大事です。また、ファンドの調達を行い現地スタッフの活躍の場を提供するのも重要な役割だと思います。

その際にポイントとなるのは、東京本部にイニシアティブがあるように見せるのではなく、現地スタッフが自分たちの力で成し遂げたと実感できるような舞台を作りあげることです。SHEPにおいても、導入段階においてはすべてJICA側で準備しますが、活動が軌道に乗ると徐々に手を放していき、最終的には、カウンターパートや農家が自分たちの力ですべて一から成し遂げたんだという気持ちを持たせる、それが我々の仕事だと思います。

普遍的な農業技術を「面」で普及できる組織

SAA長年にわたり、SAAの変遷を見てこられた相川さんですが、SAAの強みをどのように見られていますか?

相川:SAAの強みは、政府と連携して普遍的でシンプルな技術を面的に広げることができる、その実績を作ってきたことだと思います。政府やドナーなどあらゆる条件が違う中で、SAAはどの国においても、現地政府の高官とがっちりタッグを組んで、政府の手が届かない農業普及員の(再)教育をシステマティックに実施してきました。各国政府は、SAAが提供する教育コンテンツだけでなく、そのロジ力(実行力)に信頼感を抱いているのだと思います。

SAASAAのようなODA(政府開発援助)ではないファンドを持っているNGOに期待することはありますか?

相川:SAAのように現地政府の信頼があり、これだけのロジ力、機動力、組織基盤があるNGOはなかなかありません。先人の皆さんが築いてきた当たり前のこと(農業普及員の教育など)を今後もぶれずにしっかり継続することと、しがらみのない思い切った予算のつけ方や意思決定の速さ、実行力を武器に、ものになりそうな普遍的な技術をしっかり見極めていってほしいですね。あまりマニアックな、特殊な技術というのはSAAのアプローチには合わないと個人的には思っています。

AFAAS(農業普及サービスのためのアフリカフォーラム)など、日本では知られていなくても国際的な農業普及分野で名の知れている団体と肩を組んで活動できている組織は日本には他にありませんので、ぜひ、自信をもってやってください。

SAA本日は、貴重なお話をありがとうございました。

Fin

編集後記
今では広く展開されているSHEPアプローチだが、初めから完成された筋書きがあった訳ではなく、ケニアの園芸所得向上プロジェクトにおいて、相川氏らプロジェクトメンバーが、不安と葛藤を抱えながら現地の人々と伴走する中で副産物的に確立された手法であることが相川氏の話から見えてきた。長年、農業分野の国際協力舞台で活躍してきた相川次郎氏。数多くの農業普及・開発現場に携わってきた同氏の言葉には、随所に教訓が散りばめられていた。技術の移転や仕組みの構築だけではなく、いかに現地の人がオーナーシップを持ち、内発的なモチベーションにより動くことができるか、それは、きめ細やかな心理戦であり、現地の文化やリソース、コミュニティーの特性を鑑みた持続的なアプローチが重要であるということを訴えている。高い技術力とそれに伴う情熱、しかし黒子役に徹するという相川氏の国際協力の哲学をインタビューを通じて垣間見た気がした。今後も国際協力のプロフェッショナルとしてご活躍を心から期待したい。

【前編】JICA国際協力専門員 相川次郎氏インタビュー~ケニアで開発 SHEPアプローチ~

【中編】JICA国際協力専門員 相川次郎氏インタビュー~SHEPアプローチの発展:ケニアから世界60か国へ~

SAA 出版物のご紹介

E-ニュースレター
"Walking with the Farmer"

SAAの活動動向をレポートしたE-ニュースレターを隔月で発行しています。

E-ニュースレターの日本語翻訳版(PDF)はE-ライブラリーでご覧いただけます。

SAAメールニュース

E-ニュースレター”Walking with the Farmer”(英語版)とイベント情報をメールで配信しています。是非ご登録ください。

登録はこちら

ヒストリーブック

“農家と共に歩んで ―ササカワ・アフリカ財団の農業支援の軌跡―”(日本語翻訳版)

SAAの創設から現在までの歩みを記したヒストリーブック(翻訳版)です。

サクセスストーリー
Voices from the Field Special Edition 2022

「現地からの声」の記事を特別編集版としてまとめました。