エチオピアでは今もなお、農業が経済発展と貧困削減に重要な役割を担っています。改良種子や化学肥料の使用および効率的な農地利用により、農業の生産性は過去10年間で大きく向上しましたが、それは一部の品目に限られています。国内の食料安全保障および産業界からのニーズを満たすには依然として不十分であり、市場が十分に発達していないため、農家は投入した費用や労力に見合う利益を得られていません。生産性が停滞している原因としては、農家が高品質な種子や肥料などの投入材や資金、効率的な市場システム、そして研究や農業普及サービスへのアクセスがないことが挙げられます。更に、慢性的な土壌劣化、気候変動、肥料価格の高騰といった新たな課題が、問題を深刻化させています。
1993年、笹川アフリカ協会(SAA:現ササカワ・アフリカ財団)は日本財団の資金援助を受け、Sasakawa Global 2000(SG2000)という名称のプログラムをエチオピアで始動させました。その目的は、同国の農業普及システムを強化し、農業普及員と小規模農家の技術と知識を向上させ、そして現地に適した農業技術を発展させることで、農業生産性を高め、食料安全保障と小規模農家の所得向上を実現することでした。SAAとエチオピア政府が連携したこの取り組み等により、エチオピアの農作物の生産量は3倍に増加しましたが、気候変動や度重なる干ばつ、人口増加といった問題が、依然として大きな課題となっています。
2010年、SAAは新たに農業バリューチェーン・アプローチを採用しました。これまで取り組んできた農作物の生産性向上も引き続き重要視しつつ、収穫後処理や農産物加工、市場アクセスなどにも焦点を当て、より総合的なバリューチェーン・アプローチへと転換したのです。この時策定された戦略では、農村で不可欠な役割を担う女性や若者にスポットライトを当てたよりインクルーシブな普及システムの構築が強調されました。更には農家組織の強化、市場参入の拡大、官民連携の強化にも重点を置くこととなりました。
「SG2000エチオピア」として長きに渡って親しまれてきたプログラム名は、5カ年戦略(2021~2025)の策定に合わせて正式にSAAエチオピアと改め、生産から流通・消費に至るフードシステム全体を視野を入れた事業へと変革がなされました。過去の実績と新たな課題からインスピレーションを得ながら、持続可能で強靭な食糧システムの確立に取り組んでいます。
これまでの主な成果
- エチオピア農業省が1995年に開始した全国農業改良普及介入プログラム(NAEIP: National Agricultural Extension Intervention Program)にSAAの普及アプローチが採用され、全国に展開された。また、SAAの働きかけにより、農業技術・職業教育訓練所(ATVET: Agricultural Technical and Vocational Education and Training)が25箇所に設立され、6万人以上の農業普及員が訓練を受けた。
- SAA独自のモデルである農業学習プラットフォームを通じ、農業普及員と農家の知識と技術の向上、農家間の学び合い、技術普及の促進、そして生産性向上を実現。
- パートナー団体・企業との協働により、トウモロコシ、小麦、テフ、ソルガム栽培圃場における保全耕起の導入・普及の先駆けとなった。
- ティグライ州、オロミア州、南部諸民族州(現・南西エチオピア諸民族州)、ソマリア州でコメを導入し、ネリカ品種を普及。
- 条植えや定植、高品質タンパク質トウモロコシ、ストライガ低感受性ソルガム、尿素の深層施肥、カリウム肥料、野菜栽培や畜産と連携した水利用・灌漑設備、パーマガーデンなどの技術を推進。
- 米国パデュー大学との協力により開発したPICSバッグなどの費用対効果の高い貯蔵技術普及の先駆けとなったほか、中小規模の収穫後処理用の農業機械(脱穀機など)の普及を推進。
- 66カ所の農家研修センターに、収穫後処理の普及・学習プラットフォームを設置。
- コミュニティ種子増産グループ、投入資材販売業者、収穫後処理機械サービス業の若者グループ、農産加工組合、生産者グループ、グループ貯蓄組合など、450以上の農業関連組織を設立・強化。
- 220カ所の活動拠点でデジタル機器・設備を導入。29万人以上を対象にデジタル農業普及を実施。
- 現地大学との連携により現役農業普及員を対象とした教育プログラムの策定に関わり、9つの大学で2,000人以上が学位を取得し卒業。
- 440万人以上の農家やその他の受益者に対し、デモンストレーション圃場、研修、フィールドデーを通じ改良技術を普及。