【中編】JICA国際協力専門員 相川次郎氏インタビュー~SHEPアプローチの発展:ケニアから世界60か国へ~

2023年6月29日
SHEPの広域化展開について語る相川次郎氏
SHEPの広域化展開について語る相川次郎氏

ケニア発のSHEPモデルを広域展開

SAA2013年のTICAD V(第5回アフリカ開発会議)において、「『食べるため』から『稼ぐため』の農業」としてSHEPの取り組みが高く評価され、日本政府によりアフリカ地域において広く普及させることが表明されました。ケニアの成功事例を他国に展開された当時の様子をお聞かせください。

相川:SHEPの広域化は、JICA課題別研修*「アフリカ地域市場志向型農業振興」コースに参加した各国の研修員(主に行政官)が研修で学んだことを帰国後に自国で実践することで推進してきました。アフリカ各国の行政官や現場の監督レベルの人たちに本邦研修(2週間JICA関西をベースに農家や普及センター、農協、市場などを視察)とケニアでの研修(ケニアのカウンターパートによるSHEPの説明・市場調査の演習など)を受講してもらい、その後、その研修員たちが核となり、各国に見合う形でそれぞれ現地の事業を実施しています。

当時の心情としては、上手くいかないかもしれないという怖さがありました。SHEPの取り組みはケニアで成果を上げていましたが、その他の国の状況や環境は様々です。2013年のTICAD Vにおいて注目が高まったことで、「絶対に失敗できない」という大きなプレッシャーを感じました。

*課題別研修・・・日本が有する知識/経験を通じて途上国が抱える課題解決を提案するJICAの企画研修

SAA課題別研修は2014年からスタートされたということですが、実際に動き出してみて現地の反応はいかがでしたか?

相川:研修員が通常業務内で実施できないと持続性が担保できないだろうという想定の下、JICAの資金投入なしで行いました。最初はなかなか活動が進まない国もありましたが、研修に参加したアフリカ人の反応がすごく良かったですね。

2014年11月に参加したマラウイの研修員は、帰国後すぐに国際農業開発基金(IFAD)のプロジェクト予算を使って動き出しました。翌年早々に私が視察に伺うと、すでに話が具体化されていました。体系化されたマニュアルがあったわけでもなく、教材といえばケニアのカウンターパートの方たちが用意してくれたパワポ資料のみ。そんな中、マラウイの取り組みがすごく上手くいきました。2015年にマラウイの成果が出始めてからは、バタバタと他国にも広がっていきましたね。

SAAまずマラウイで上手くいった要因は何だったのでしょうか?

相川:初年度の課題別研修は、6月と11月に2回行い、約15か国から参加者がありましたが、マラウイ農業省から参加した研修員がとても優秀な方で、ケニアの事例を自国に合うように、活動をシンプルにして展開していきました。私たちもそれに倣い、ケニアの成功事例をベースに作成した研修資料にマラウイの事例を盛り込みながら改良していきました。

農産物だけでない。畜産や手工芸品もSHEPアプローチ

SAAアフリカ各国でSHEPアプローチが導入されると同時に、さまざまなバリエーションが出てきていますが、SHEPのエッセンスとして残る原理原則と、国や地域によって変化しうる部分は、それぞれどんなものがありますか?

相川:最初にお話しした4つのSTEPを守っていれば、活動内容はバリエーションがあって大歓迎です。最近ではSHEPアプローチは、農産物以外に畜産や手工芸品にも導入されています。コモディティが変われば市場調査の対象も場所も変わりますし提供する技術も異なります。図1のオレンジの部分と図2の4つのSTEPを守っていれば、さまざまな活動があってしかるべきです。

SAA:2013年のTICAD Vから考えると今年でちょうど10年ですが、この10年でSHEPは途上国における農業普及モデルの代表格となったと言えるのではないでしょうか。

相川:SHEPの評価には、2つの側面があると思っています。一つは、農業手法としての評価です。SHEPは、小規模農家と市場関係者間の情報の非対称性を緩和するというシンプルな農業普及手法であり、核となる普遍的な部分とカスタマイズできる流動的な部分が明確であるという点で優秀なモデルです。

もう一つは、SHEPの展開方法です。SHEPのコンテンツを一つのプログラムとして、国際機関やNGOの方々が展開することができる。この2つで評価されていると思っています。現在は、アフリカだけでなく世界60か国、アルゼンチンやニカラグアをはじめとする中南米、アジアにも広まっています。

SAASAAでも「市場志向型農業」の活動の一環で全事業対象国でSHEP研修を展開していますし、その他の農業普及モデルをいかに展開・スケールアップしていくかという点においても、SHEPの取り組みは非常に参考になります。

後編へ続く・・・


【前編】JICA国際協力専門員 相川次郎氏インタビュー~ケニアで開発 SHEPアプローチ~

【後編】JICA国際協力専門員 相川次郎氏インタビュー~相川氏とSAAとの関わり~

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