【前編】京都精華大学ウスビ・サコ学長に、SAA北中理事長が対談インタビュー

2021年12月21日

マリ共和国で生まれ、中国・北京語言大学、南京東南大学を経て来日、2001年より京都精華大学で教鞭をとり、2018年より同大学学長を務めるウスビ・サコ氏。今回、初めてササカワ・アフリカ財団(SAA)の北中理事長が、オンラインで対談いたしました!前編では、様々な国の生活様式を研究されてきたサコ学長に、生まれ育ったマリの話、アフリカの発展と日本の関わり、日本とマリの仕事における相互理解について語っていただきました。

 

マリってどんな国?

北中:まず初めに、マリのお話を伺いたいと思います。我々が、日本人にマリという国を説明するとき、一言ではなかなか難しいのですが、どんな形で説明すると分かりやすいんでしょうか?日本の3倍の面積で、北部の3分の1は砂漠で、ニジェール川が流れていて...などと言ったりしますが。

サコ学長(以下敬称略):私たちがマリを説明するときは、地理的なことより人にまつわることがメインですね。複数の民族がいることや、ユーモアがある、冗談をかけあう関係性、挨拶が長いなど、人に関する特徴を話します。マリ帝国などの歴史や偉大な人物も話題に挙がりますね。

北中:なるほど。マリの国旗は、緑・黄色・赤。緑は農産物、黄色は天然資源、赤は独立の時に流れた血を表わしていると本で読んだことがあります。マリの子どもたちは、独立の戦いについて、小学校で習うんでしょうか?

サコ:微妙なところです(笑)。マリは、独立時にアルジェリアのような戦争はしていません。ただ、ヨーロッパの植民地化に対する抵抗過程で血は流れている。マリ帝国やソンガイ帝国の崩壊や帝国同士の戦いもあったので、そういった歴史は学校で学んでいます。

若者と農業

北中:いつの時代も、日々食べていかないといけないので、農業は大事だと思いますが、マリの若い人たちにとって、農業というのは人気のない職業でしょうか?

サコ:農業は、主に高齢の方が生活の一部として行っていて、若い人の職業という認識が余りありません。人口の80%は農業をやっていますが、農産物を売る売らないというのは、また違う価値観だと思います。職業としての農業というのはピンとこないけど、生活の一部としておじいさんとか知り合いがやってたりする。ただ、最近は、農業の技術学校や大学もあり、自分で生産した農産物を販売する人も出てきています。生活に余裕のある人は、ニジェール公社などから広い土地をもらって、農業や畜産をやっています。機械を海外から購入し大量生産するなど、プロフェッショナルな農家も増えていると聞いています。一方、昔から生活の一部として農業をしている人たちは、水不足や技術不足で、とても苦しいですね。

 

アフリカの発展と日本の関わり

北中:アフリカの発展を議論するとき、リープフロッグ(カエル飛び)現象が持ち出されたりします。固定電話が普及する前にスマホが普及するといったように、技術が徐々に上がるというよりも、新しい技術が入ることによって、一気に世の中が変わるという現象ですが、サコ先生もマリに戻られたとき、世の中変わったなと感じられることはありますか?

サコ:消費力は上がりました。ただ、生産力は上がっていないと感じています。ものを買うお金、得る手段は増えて、消費力は上がっている。しかし、何を消費しているかというと、中国やトルコから輸入したものを消費している。自分たちで生産していないんですね。消費能力の向上とともに企業活動、産業も発展していくといいのですが、マリの場合は、残念ながら、産業化が進んでいない。資源を外に持ち出し、ものになって帰ってきてそれを買う、という構図が変わっていません。中国に持っていかずに、一緒に作ろうというパートナーシップが未成熟なんですね。

北中:同じようなことを感じている専門家は多いですね。一方で、日本企業がアフリカに進出しようとしても、足がかりがなく難しいという話も耳にします。何を足がかりにすればよいでしょうか?

サコ:日本は、アフリカと関わろうとするとき、いつもヨーロッパを経由しますが、それが最も通じないと思いますね。ヨーロッパ中心の経済の回し方、数字やロジックをベースに考えるのではなく、アフリカでは、ソーシャルサイエンス、アフリカではもっと社会をベースに考えていいのではないかと思います。アフリカ経済の80%はインフォーマルと言われていますから、あのごちゃごちゃの中でとった統計数字を基準にするのではなく、アフリカ人の持っているポテンシャルを見た上で、どういう発展が良いのか考えるべきです。

     日本は町工場から大企業に発展しました。日本の町工場的な付き合い方、毎朝朝礼をして、「さぁ仕事しようぜ!」という、ヨーロッパから見て不思議だと思われる習慣が実はアフリカに合うかもしれない。アフリカもその理論に近いと思いますね。ヨーロッパはアフリカで70年の経験があるというけれど、失敗しているんです(笑)。フランスは、言葉の面では通じるけれど、上目線の付き合いで真のパートナーシップは築いてこなかった。日本の発展がアフリカの参考になると思いますね。

北中:サコ先生は、日本にも長くいらして、他の国も研究されているので、非常に納得できるお話でした。ソーシャルなところから攻めていかないと物事動かないというのは、我々も日々感じているとことです。

 

日本とマリ、仕事における良い協力関係を築くには?

北中:SAAの首都バマコにある事務所は、スタッフは全員マリ人です。東京は予算と全体の方向性を示しますが、事業は現地スタッフがやっています。マリと日本の良いやり方をミックスさせようとすると、どのようなやり方が良いと思われますか?

サコ:日本の良いやり方はぜひマリの人に学んでほしいと思います。例えば、研修という形でマリの人を日本に呼んで、一定期間、日本のオフィスで一緒に仕事をして、マリに帰国後も、その人たちを連絡窓口にする。その逆も然り。そうすると、話がより通じ合うと思いますし、お互いのことを学び合おうという姿勢ができますね。

ただ、日本人駐在員というのは、プレッシャーがある。何か結果を出さないと、リーダーシップを取らないとというプレッシャーが強いと現地の人から学ぼうという姿勢に欠けてしまいます。お互い良く観察し、問題点があれば補い、強みは伸ばしていくという姿勢が大事ですね。

また、マリの人には、オーナーシップをもって、自分事として仕事にコミットしてほしいですね。SAAはお金を持ってくるが、きっちり報告しないと自分たちのスポンサーに愛想をつかされる。この報告をすることによって、自分たちが生かされるという認識を十分持たないといけない。日本で一緒に仕事をすると、そういった認識が共有できます。2~3年日本で仕事をした人は現地に戻っても姿勢が違いますよ!

北中:研修という形ではあまり現地の人を日本に呼んでいなかったので、ぜひ検討してみます!

サコ:現地の人が来てもパパっと見て帰ってしまうことが大半なので、一緒に残業してカップラーメンを食べるくらい、どっぷり浸ってほしいと思います!(笑)

後編に続く...

【後編】京都精華大学ウスビ・サコ学長に、SAA北中理事長が対談インタビュー
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