【後編】鳥取大学農学部 西原英治教授にお聞きしました~バイオ炭のポテンシャルとアフリカでの普及可能性~

肥料として活用するバイオ炭の可能性
菊池:バイオ炭が有している無機成分を肥料として利用する研究もされていますが、肥料として活用するという視点が新しく大変興味があります。
西原:バイオ炭の肥料効果に関してはまだまだ研究の余地が多く残っていますが、効果として大きく2つ考えられます。
1つはバイオ炭の原料にも寄りますが、バイオ炭自体に含まれているいろいろな無機成分です。これは、どのような無機成分をバイオ炭から供給したいかによって変わるため、どのような原料を使い、そして炭化温度と時間によって各無機成分の割合が変わります。一般的に、植物由来のバイオ炭は多くのカリウムを含んでいるため、このカリウムの利用は有効であると考えられます。但し、バイオ炭に含まれるいろいろな無機成分の形態がどのようなものかを理解しておくことも必要です。
2つめは、バイオ炭自体の8つの異なる吸着メカニズムによる無機の吸着です。この吸着によって、作物生産に対する各無機成分の肥料利用効率を向上させることが可能です。
ウガンダ・マケレレ大学と推進するバイオ炭の社会実走
菊池:西原教授はウガンダの国立マケレレ大学と共同研究をされていますが、可能な範囲で内容を教えていただけますか?
西原:ウガンダ・マケレレ大学とは、9年前、私の所属する鳥取大学と大学間学術協定(MOU)と学生交流に関する覚え書(MOSE)を締結しています。まずバナナの皮の残渣をバイオ炭にして農業へ利用できるかどうか、そしてどのような無機成分が多く含まれ、そのバイオ炭を土壌へ施用した時、含まれている無機成分が作物へ利用可能かどうかなどの研究をし始めました。そして、私の研究室からも1年間マケレレ大学へ留学し、修士研究で農産廃棄物から作ったバイオ炭と温室効果ガスの一種である一酸化二窒素(N2O)低減の関係を共同で研究していました。
N2Oは主として窒素肥料に由来し、農耕地から放出後、紫外線によって分解され、一酸化窒素(NO)を生成し、オゾン層を破壊する作用があるため、農業分野で克服しなければいけない温室効果ガスの一種となります。ウガンダでは、ピーナツ殻やいろいろな農産廃棄物をバイオ炭にして農村で実証試験も行っています。過去には、ウガンダの農村でもみ殻のバイオ炭を作り、そのバイオ炭を施用してトウモロコシ栽培を実証しました。化学肥料を通常の1/2量にしてもトウモロコシの収量が25%以上上がり、農村でも喜ばれています。
現在、農産廃棄物から作成するバイオ炭を主体に、①食料安全保障(気候変動に対して強靭な作物生産体系の構築)と②温室効果ガス低減の2つの目標を、より強固な共同研究体制によるバイオ炭の普及を通じて実現していきたいと考えているところです。
マケレレ大学を卒業し本学に留学して卒業した学生数は、博士課程が4名、修士課程が1名です。本学からも3名の学生がマケレレ大学やウガンダへ約1年間留学しており、いずれもバイオ炭研究がメインテーマとなっています。
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バイオ炭施用の様子(University farm of Uganda Martyrs University, Ngetta Campus in Lira city, Uganda)(西原教授ご提供)
農家がバイオ炭を利用するメリットを理解する
菊池:ウガンダの土壌でのバイオ炭の効果や、アフリカ熱帯サバンナにおける汎用性について教えてください。
西原:ウガンダは多様な気候帯(乾燥地~熱帯湿潤)を有していることから、ウガンダの農産廃棄物からバイオ炭を作成し、それを各地域の農耕地へ普及することができれば、他のアフリカ諸国へもバイオ炭利用の普及は可能であると考えます。バイオ炭利用による土壌改良や作物生産向上効果も大切ですが、農家さんに対してバイオ炭利用のメリットを提示していくことで、他の国々へバイオ炭を普及していくことができると考えております。
菊池:気候変動の問題が深刻化し、脱炭素・炭素貯留の関心が高まっている中で、バイオ炭は確実に炭素を土壌に貯留できる手法だと思います。また肥料として活用できるという発見もありました。一方で、その取り扱いや製造の難しさ等、(アフリカでの)普及の課題があればお教えください。
西原:ウガンダでは、農村の方々に自主的にドラム缶などでバイオ炭を作ってもらうトレーニングをして、自主的にバイオ炭を自分が栽培する作物に対して施用してもらうような取り組みを行ってきましたが、炭素貯留や肥料効果については詳しい話をしていません。日本でも一度に農家さんへバイオ炭の効果を説明しても、ほとんど理解してもらえない状況を経験してきています。このため、まずはバイオ炭を施用してもらい、そこの作物の生育や収量などを農家さん自身に確認してもらうことを第一ステップとしています。
そもそも、アフリカでは昔から炭を調理などで使っているので、バイオ炭そのものは新しいものではありません。バイオ炭製造時の炭化温度や時間などのバイオ炭の特性を気にしなければ、バイオ炭を現地の方法で作り、それを自分の畑に施用するという方法での導入が良いのではないかと考えています。
また、ウガンダ・マケレレ大学と協力して、毎年マケレレ大学の農場で行われている農家さん向けのトレーニング・プログラムに、バイオ炭の製造法や施用法などの実習と講義の科目を設定してもらう予定になっています。このトレーニング・プログラムに参加する農家さんは、100名以上になることが想定されることから、むしろウガンダ政府の農業省の各地域の普及員たちを研修した方が良いのではないかという意見もあります。
バイオ炭を取り巻く仕組みづくりが普及のカギ
菊池:低肥沃な土壌で農業をしているアフリカの農家をどのようにサポートできるかを試行錯誤する中で、SAAでもバイオ炭の活用を検討できればと思います。最後にSAAへのメッセージをお願いします。
西原:私はウガンダの地域ごとの農産廃棄物から作るバイオ炭を、作物生産を改善させる一つの栽培手法としてそれぞれの地域の農耕地へ普及し、循環型の持続可能な農業を推進したいと考えています。しかし、バイオ炭利用だけでは、農家さんの生活を豊かにしていくことはできません。農作物をどのように販売するかなどのサポートも大切と考えますし、また、バイオ炭を多くの農家さんに利用してもらうには、日本同様に、バイオ炭による農耕地への炭素隔離量をカーボンクレジット化にして売買できる仕組みを構築することが、各農家さんの作物栽培の意欲、生活の向上につながっていくのではないかと考えます。近い将来バイオ炭が農業をいろいろな側面からサポートできる1つの有効な材となれば良いと考えています。
菊池:本日は、貴重なお話をありがとうございました。
Fin.
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