【前編】コーヒーハンター José. 川島良彰氏、サステナビリティ・アドバイザー山下加夏氏 ×SAA北中理事長&若手職員
長年、溢れる情熱をコーヒーに注ぎ込み、現地の人から敬意をもってコーヒーハンターと呼ばれるJosé.川島良彰氏。同氏は昨年3月、山下加夏氏(サステナビリティ・アドバイザー)、池本幸生氏(東京大学教授)と著書で、『コーヒーで読み解くSDGs』(ポプラ社)を出版した。コーヒーとSDGsについて、易しく紐解いた本書は、一般読者にもとても理解しやすい内容で、大きな反響を呼んでいる。今回、SAAの北中理事長 (Part 1 & 2)と、コーヒーにゆかりある若手職員2名 (Part 3) が、José. 川島氏と山下氏に話を伺った。
【PROFILE】
José. 川島良彰氏(コーヒーハンター/株式会社ミカフェート 代表取締役社長)
1956年、静岡市の焙煎卸業の家に生まれる。1975年中米エルサルバドル国立コーヒー研究所に留学し、コーヒー栽培・精選を学ぶ。大手コーヒー会社に就職。ジャマイカ、ハワイ、スマトラで農園開発を手掛け、マダガスカルで絶滅危惧種の発見と保全。レユニオン島では絶滅種の発見、同島のコーヒー産業復活を果たす。2008年、株式会社ミカフェート(*2)を設立。 2019年、『ニューズウィーク』の「世界が尊敬する日本人100」に選ばれる。日本サステイナブルコーヒー協会理事長、タイ王室メーファールアン財団コーヒーアドバイザー、国際協力機構(JICA)コーヒー分野にかかる課題別支援委員会委員長。
山下加夏氏(サステナビリティ・アドバイザー/元国際NGO職員)
慶應義塾大学卒業、ケンブリッジ大学修士号サステイナビリティ・リーダーシップ取得。外資系企業勤務後、2001年より国際NGOコンサベーション・インターナショナルに勤務。気候変動プログラム・ディレクターとして、国連気候変動枠組条約の森林保全に関わるアジェンダへのインプットや日本政府の資金援助に基づく開発途上国の森林保全調査案件を率いた。日本と開発途上国のパートナーシップによる持続可能な社会の実現をライフワークとする。2015年より、株式会社ミカフェートのサステイナブル・マネージメント・アドバイザー。コーヒー生産農家の現状を調査し、持続可能な成長に向けて必要な支援や体制を構築している。
||| 書籍『コーヒーで読み解くSDGs』反響上々
北中:本日は、川島さんと山下さんに対談をお願いいたしました。川島さんとは、以前からも親しくさせていただいていましたが、今回の企画をお願いした背景は、お二人が中心に執筆された書籍『コーヒーで読み解くSDGs』を、私も読ませていただき、コーヒーとSDGsのつながりについて非常に分かりやすくまとめられているなと感心したことがきっかけです。『コーヒーで読み解くSDGs』は、非常に好評と聞いておりますが、反響の方はいかがですか?
José. 川島氏(以下、敬称略):色んな方からお褒めの言葉を頂いて講演会を頼まれたりしています。最近は、本でも紹介してます石光商事株式会社(*1)の社長にまで「コーヒーとSDGs」をテーマに講演依頼があったそうです。
山下氏(以下、敬称略):SDGsをすでに良く知っている企業関係やメディアの方からの反応も嬉しいですが、一般の方が本を読んで、「コーヒーについて考える機会をもらった」「コーヒーに対する考え方が変わった」と言って下さるのがとても嬉しいですね。そこを達成したいという思いでこの本を書いたので!
北中:石光商事と言えば、近畿大学(大阪府東大阪市)にてコーヒー抽出後に出るコーヒー豆かすから「バイオコークス」燃料を製造し、それを利用したコーヒー豆を共同開発されていますが、実用化は進んでいますか?
川島:本を書いているころは、まだこれからという段階でしたが、今は、バイオコークスで焙煎した豆を製品化して販売しています。ただ、コストがかかるので、急激に売れるには至っていませんが、実用化はしました。
北中:コーヒーは種を商品にするので、実や抽出後のかすの部分は、廃棄されてきたということですが、コーヒーの生産現場では、実の果皮を堆肥化したりする環境に配慮した取り組みは進んでいるんでしょうか。
川島:日本より生産国の方が進んでいます。1990年代以降、生産国では、すでに環境問題が深刻な課題でした。「コーヒー産業がジャマイカのブルーマウンテン山脈の河川を破壊している」「栽培に使用する殺虫剤で生態系が壊れている」と言われてきたので、ミミズ堆肥は中南米では当たり前に利用されていますし、コーヒー実のパーチメント(内果皮)も機械乾燥する際の燃料に活用されてきました。生産国の方がコーヒーの廃棄物の利用は進んでいると思いますね。
山下:コーヒーの果皮を粉砕した粉は、パンやお菓子の原料になります。日本では売ってないですが、アメリカで手に入るみたいですね。
||| 日本のコーヒー文化
北中:執筆された本では、「コーヒーとSDGs」をテーマに、コーヒーの文化的価値にまで話が及びます。コーヒーが生産地の暮らしや文化を形成してきたという話ですが、これは、他の食品ではなかなか見ない例だと思いますね。健康や地球環境を謳っている食品メーカーは目にしますが。文化まで形成するコーヒーはすごいなと思いますが、川島さんは、「日本には正確な情報が伝わっておらず、真のコーヒー文化が育っていないので、作り上げるんだ」と以前よりおっしゃっていました。今でもそういった気持ちをお持ちですか?
川島:コーヒー産業の現状をみると日本酒とよく似ていると思います。つまり、大手が強すぎてビジネス的にコーヒーを浸透させてしまったので、文化として根付いていないんです。日本酒に関して言えば、従来の日本酒文化があったのですが、大手企業の寡占化が進み、地方の造り酒屋が下請けをしないと生き残れなくなってしまった。そうではなく、「自分たちのおいしい日本酒を飲んでもらおう」という若者が出てきたのが1990年代以降。ようやく日本酒の地酒ブームが生まれたわけですが、この変遷がコーヒー業界と非常に似ていると思いますね。
コーヒーが一般家庭に普及していった当初、大手コーヒー会社は、自分たちに都合のいい話しかせず、コーヒー本来のおいしさが消費者に届けられることはありませんでした。1990年代以降、バブルが崩壊し、喫茶店が街から消えてしまったとき、自家焙煎というのが生まれてきた。自家焙煎の人たちが大手に対抗して、本来のコーヒーのおいしさを作っていったわけですが、その延長が今のサードウェーブ(第3の波)になっています。
一方、ワインは、独自の文化を築いている。日本は、1980年代に入ってからですが、中小の輸入会社がワインを輸入し、ワインスクールを始めたりソムリエ協会を作ったり、多くの消費者に情報を開示してワインの文化を作っていきました。
川島:また発展途上国で作り、先進国で消費されるコーヒーは、SDGsに取り組みやすい業界じゃないですか。南北問題の象徴的な農産物で、生物多様性の危機に瀕しているところで栽培されていた訳ですから。SDGs云々以前から、CSRに取り組みやすかった業界にも関わらず、取り組んでこなかった。コーヒー業界というのは、そういった点でも遅れているなと感じます。
||| 生産国と消費国、カギは双方向の文化理解!
山下:「生産地のコーヒーにまつわる文化的背景を、消費国が正しく理解し、尊敬し、楽しむ」これがとても大事だと思います。日本には、古くから喫茶店文化があり、コーヒーを飲むことを楽しんできましたが、それは、あくまで消費国で完結する文化であって、生産者側の情報は極端に少なかったと思います。
例えば、コロンビアなんかに行くと「コーヒーが村の文化そのもの」というところばかりです。子どもからお年寄りまで、彼らの生活はコーヒーに根ざし、裏打ちされている。風景、考え方、価値観すべてにコーヒーが根付いているんです。そういった生産国の文化に思いをはせ、尊敬と有難みをもってコーヒーを楽しむことが消費国である私たちの文化だと思いますね。
北中:キューバで国際シンポジウムに参加した時のことです。「コーヒーと文化」を語るコスタリカ人の大学の先生が、スペイン語の表現「Beber café」と「Tomar café」との違いを話されていました。どちらも“コーヒーを飲む”という意味ですが、「Beber café」は、一人でコーヒーを飲む。一方、「Tomar café」は、みんなで飲むという意味合いがあるとおっしゃっていました。日本でも「お茶を飲む」というと“みんなでお茶を楽しむ”といった意味があると思います、そういった文化は大事にしたいなと思いますね。
中編に続く...
*1 石光商事株式会社
1951年設立。本社:兵庫県神戸市。コーヒー輸入・販売を主力とする飲料、食品輸入商社。コーヒー業界のパイオニア。コーヒー抽出後に出るコーヒー豆かすからバイオ燃料「バイオコークス」を製造し、それを燃料として焙煎した環境にやさしいコーヒーを産学連携で共同開発。
書籍「コーヒーで読み解くSDGs」(ポプラ社)
中編】コーヒーハンター José. 川島良彰氏、サステナビリティ・アドバイザー山下加夏氏 ×SAA北中理事長&若手職員
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