【後編】京都精華大学ウスビ・サコ学長に、SAA北中理事長が対談インタビュー
マリ共和国で生まれ、中国・北京語言大学、南京東南大学を経て来日、2001年より京都精華大学で教鞭をとり、2018年より同大学学長を務めるウスビ・サコ氏。ササカワ・アフリカ財団(SAA)の北中理事長と、オンライン対談が実現いたしました!後編では、日本の大学に造詣が深くグローバルな視点を持ち合わせるサコ学長に、未来を担う若者の可能性、日本とアフリカの相互理解について語っていただきました。
日本の若者とアフリカ、肌で感じる相互理解
北中:サコ先生は、日本の学生をマリなど様々な国に連れていかれています。若い時に肌で感じることはとても大事だと思いますが、先進国だけでなく途上国も含めて、学生が異国の地を体験することをどのように感じていらっしゃいますか?
サコ学長(以下敬称略):どの地域に連れて行っても、沢山の学びがあります。日本のフレーム型教育の中で育ち、何となく通じ合っていると思っていたことが、海外に行くと全く違いますからね。特にアフリカは、アメリカやヨーロッパと違い、情報も少なく想像がつかないので。私は、メタモルフォーゼ(昆虫の変態)という言葉を使っていますが、ものすごい変化を彼らは遂げます。
ある女子学生の話ですが、日本では、引きこもりがちで、沢山話すと泣いてしまう子でしたが、マリのフィールドワークに連れて行きました。いつ帰りたいと言い出すかと心配していましたが、私がプログラムの最後に見に行くと、彼女がパーティーの中心で踊っているんです!もう、変わりすぎて大丈夫かと心配になるくらいでした!(笑)何が彼女を変えたのか聞いてみると、「マリでは、誰も放っておいてくれなかった」ということです。日本では、何となく理解を示して周りは放っておく、でも、彼女の中には、きっと、変わりたいという気持ちがあったんでしょう。ただ、自分からは言い出せなかった。
海外を経験した学生の気づきで一番大切なのは、「同じ人間なんだ」ということです。自分の肌で感じると、相互理解が深まりますし、アフリカに対する関わり方が変わってくると思いますね。
北中:日本政府も民間企業もアフリカと交流を進めてはいますが、まだ、アフリカを知る機会が少ないですし、治安が不安だったりと、ためらいもあります。もっと多くの人がアフリカに行く工夫はないでしょうか?
サコ:私は、親と学生にできる限り詳細な情報を提供しています。インターネットだと悪い情報ばかりが出てきますので、私自身も話しますし、留学経験者にも話してもらいます。特に病気や病院の情報は詳しく提供します。安全神話はありませんから、地域どうこうではなく、「人に会いに行くんだ、マリ人に会いに行くんだ」という気持ちを持ってもらいます。帰ってきた人には、必ず報告会や展示会をして、現地で体験したことを普及してもらっています。良いことも、大変だったことも、SNSに素直に書けばいいと思いますね。インフルエンサーがいれば、彼らの気持ちは動きます。今の若い人にはそれが通じますね。
北中:奥が深いですね。サコ先生は新しい学部を作られたり、アフリカに学生を連れて行かれたり色々されていますが、保守的な大学組織の中で、中には賛成しない人もいると思います。日本社会の中で、外国人のサコ先生が新しいアイデアを通すノウハウはどのあたりにあるのでしょうか?
サコ:割と大胆なことをやって皆さんを急かせてしまいましたが、ダメだと反対する人たちも、実はダメな理由がなんとなくしかない、ということがよくあります。これからは、若い人たちの時代です。今後30年の世界のことを考えたとき、当たり前に多様化された組織になると思います。選択するかどうかは彼らに任せますが、選択肢は準備します。例えば、インドネシアに行った学生は、驚くほど明るくなって帰ってきました。行くと幸せの定義が変わるんですね。日本社会がすべて解決策を持っているわけではないので、日本でしか道がないというのではなく、常にalternative(別の可能性)なところを探っていきたいですね。
日本とアフリカの架け橋
北中: SAAは、日本の若者や企業の海外進出の架け橋、日本とアフリカをつなげるようなこともやりたいと思っています。その中で、サコ先生にお願いなのですが、SAAのアンバサダーになっていただけないでしょうか?
サコ:私にできることがあれば喜んでさせていただきます。大学サイドの経験になりますが、また違った視点を提供できるかもしれません。マリに帰国した際は、SAA現地事務所にも是非行かせてください。また、大学では、学生のインターンシッププログラムを行っていますが、例えば、SAAの東京事務所で働くといった経験は、海外留学が難しい学生などにとって、とても良い経験になると思います。大学と社会が接続することは非常に大事だと思っています。
北中:ありがとうございます!私からばかり質問してしまいましたが、先生から何かありますか?
サコ:現地で活動されていて、何に一番苦労したのか知りたいですね。
北中:終わりがないことでしょうか。一部で上手くいってもなかなか横展開しない。政府が仕組みを作って横展開しないといけないのですが、政府も安定しない。我々は、基本的な技術が早く広く伝わることを期待するのですが、なかなか時間がかかりますね。
サコ:政府にも問題があって、田舎を開発しようという話が出てきません。都市、インフラにばかり目がいっていますね。日本は隅々まで道路が整備されて、田舎で生産されたものがきちんと流通しています。そういったことをもっと語っていいと思います。マリでは、「農村=遅れてる」という感じになってしまいますが、海外に出ると、農村にこそ価値がある。都市で生まれ育った私も、自分に何もものがついていないですからね。農村にあるものに誇りをもちなさい、という教育も大切だと思いますね。
「表現で世界を変える」、その真意は?
北中:最後に、サコ先生の画面背景に「表現で世界を変える」という京都精華大学のスローガンがありますが、これは、どんな思いで付けられたのでしょうか?
サコ:表現というのは、何かを作るなどの狭い意味ではなく、自分が話すことも含め、自分自身がメディアであるということです。自分の姿勢がすべて表現なのです。芸術、言葉、行動など色んな表現方法がありますが、その中心は自分が担うということを理解してほしいという思いを込めています。
北中:やはり奥が深いですね!本日は、色々お話しいただいてありがとうございました。
【前編】京都精華大学ウスビ・サコ学長に、SAA北中理事長が対談インタビュー
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