移動式収穫後処理機の普及 ~民間の脱穀サービス提供モデルの事例紹介~

エチオピア
2022年5月20日
脱穀機を使ったメイズの脱穀サービス
脱穀機を使ったメイズの脱穀サービス

穀物の収穫後処理の中で脱穀は主な作業の一つですが、エチオピアの伝統的な脱穀作業は重労働で多くの人手が必要とされ、収穫後処理の過程における損失ポストハーベスト・ロス)の大きな一因にもなっています。伝統的な方法は穀物を叩いたり、杵でついたり、家畜に踏ませたりして行われますが、この時に家畜に食べられてしまったり、穀粒が損傷したり、不十分な脱穀によって廃棄され量的な損失が出るだけでなく、砂や土などの不純物と混ざり、穀物の品質が損なわれることもあります。従来の脱穀作業は、労働力の問題以外にも作業に時間がかかることや、脱穀後の穀物の品質、穀粒の量的損失も問題になっていて、より効率的な脱穀の手段が求められていました。

このような状況を踏まえ、収穫後の穀粒損失を減らし品質を維持することで市場アクセスの改善と販売価格の向上を図るべく、SAAエチオピア事務所では2003年から収穫後処理技術のデモンストレーションを開始しました。その結果、ナイジェリアの国際熱帯農業研究所(International Institute for Tropical Agriculture: IITA)が導入した脱穀機を、エチオピアのセラム技術職業訓練学校(Selam Technical and Vocational College: STVC)と共同で改良し、*テフ、キビ、ソルガム、小麦、大麦などの小型穀物の脱穀に対応できるようになりました。また、メイズに関しては、AGE-Engineering Metal Works社と共同でバコ式トウモロコシ脱穀機を改良し、エンジンの部品を簡素化しました。これらの改良された脱穀機はその後、テフ、トウモロコシ、小麦などの生産地を生産している試験地区で実演され、実際にこの技術を見ることで地域の農家たちに利点が理解されていきました。

このデモンストレーションは、ベルグ(2月ごろから2~3か月続く小雨季)の時期にテフの生産地帯であるシャシェミン地区とその周辺地域で実施され、大成功を収めました。そして、このデモンストレーションを見た一人の若く有望な起業家に一部費用負担を求める条件で多作物対応脱穀機を提供することになったのです。操作と整備に関するSAAの研修を受けた後、彼が兄弟と共に近隣のシャシェミン地区とネゲレ・アルシ地区で脱穀機のレンタル業者を始めると、脱穀機の普及は一気に進みました。特にシャシェミン地区では脱穀機が導入され始めて2〜3年の内に普及率は100%に達し、テフの脱穀に牛が使われることはなくなりました。

バコ式脱穀機によるテフの脱穀サービスの様子

脱穀機のレンタルサービスは、その更に2~3 年後にはシャシェミン地区だけでなく、近隣のネゲレ・アルシ地区、シャラ地区、シラロ地区にも広がり、脱穀サービス業者は多くの利益を得られるようになりました。やがて業者の数が増え、この3地区が飽和状態になると、脱穀サービス業者たちは機械の稼働時期を少しでも長くして利益率を最大化するために、収穫時期がずれる他のテフ栽培地区へ移動し、まだ脱穀機が普及していないベール地区やグジ地区など、自宅から320kmも離れた遠方の地域までサービスを拡大しました。今ではトウモロコシの脱穀は西ゴジャム県、テフの脱穀は東シェワ県、西シェワ県、南西シェワ県でも機械化が進んでいます。

この脱穀技術がここまで広く普及したのは、伝統的な脱穀よりも作物の品質が改善されることで高値での販売に繋がったこと、穀粒の量的な損失が削減されたこと、人と牛の労働時間の節約に繋がったことなどのメリットが重なった結果です。さらに、機械を操作する作業員という雇用の機会や、所有者の収入増加にも繋がりました(表1)。脱穀機は、農家の所得向上、労働条件の改善、新しいレンタルサービス市場の創造に貢献し、数百人の新規雇用を創出しました。

表1. ある民間脱穀業者のトウモロコシ脱穀量と収益の推移


*主にエチオピアで栽培されている穀物。テフを曳いた粉はクレープのようにして焼いて食べられる。

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