農業資材販売業で、ふるさとに貢献!~エチオピア・アムハラ州、デンベリさんのストーリー~

エチオピア
2022年2月10日

エチオピアの農村では、農業投入財(種子・肥料・農薬等)を必要に応じて入手することが困難な地域が多数あります。この課題に取り組むため、アフリカの農業支援ドナーAGRA(※)出資によるプロジェクト『IMPACT(Improving Market-led Production of selected Agricultural Commodities in Targeted Woredas of Amhara and Tigray)』では、農業資材販売業グループを農村に設立することで、農家の資材調達の支援、また、若者の雇用創出の機会を提供しています。

エチオピアの中北部、アムハラ州・バソリベン地区(Amhara, Basoliben district)に住むデンベリ・ギザチェフさんは、IMPACTプロジェクトの支援を受け、農業資材販売業を営む若者の一人です。
今でこそ、事業を軌道に乗せているデンベリさんですが、初めから農業資材の仕事を志していたわけではありません。2019年に植物学の学士号を取得した彼女は、自身の研究分野を生かした仕事を志しました。しかし、エチオピアの他の多くの若者と同様、希望した職に就くことは困難でした。大学を卒業後、彼女は一旦町から離れ、田舎の農村で暮らす両親の元へ戻らざるを得ませんでした。しかし、両親とともに生活する間、彼女は諦めていたわけではありません。自分にできることを探し、教会の礼拝用に蜜ろうからキャンドルを作るという小さなビジネスを始めました。

このマイクロビジネスがきっかけとなり、デンベリさんはIMPACTのプロジェクト「農業資材販売業者支援プログラム」に地区の農業事務所から選出されました(プログラムへの候補者は、自発性やビジネス感覚等、決められた基準に基づき選出されます)。2020年3月、デンベリさんは、IMPACTから提供されたシードマネー2,700米ドルと自身のビジネスで捻出した貯蓄を合わせ、事業の元手としました。また、IMPACTの支援を通じて、ビジネススキルや農業資材管理に関する研修を受講、ビジネスや検疫基準に関する知識も学びました。

デンベリ・ギザチェフさん(自身の農業資材販売店にて)

同年5月、デンベリさんは農薬販売店が不足している地域で店をオープンしました。農業資材に関する実務は未経験でしたが、彼女は、研修で学んだことを生かし、事業を成功させるという意気込みに溢れていました。

起業から1年、IMPACTのプロジェクトスタッフが訪れた際、彼女の店は大きく成長を遂げていました。店には、28種以上の農薬、収穫物した作物を保存するための密閉保存袋(PICS Bag)、噴霧器、樹木や野菜の種など様々な商品が並べられ、販売量もかなり増加していました。多くの卸売業者や農家(顧客)と関係を構築し、1年間でおおよそ、化学薬品2000L、殺菌剤150L、野菜の種418kg、樹木の種25kg、PICS bag 560個、噴霧器55台を販売しました。そして、デンベリさんの資本金は、起業時から30%増加していました。彼女のサービスのおかげで、3,500人以上の農家(女性850人)が、自宅から歩いて、必要な資材(種子・肥料・農薬等)を購入することができるようになったのです。

デンベリさんは、現在、雇用された場合に得ていたであろう収入よりも、多くの収入を自分で稼いでいることを非常に誇りに思っています。最近は結婚して家庭を持ちましたが、必要な生活用品はすべて自分で購入できています。

「農業資材販売業は、ただお金を稼ぐ手段というだけではありません。農村コミュニティーに役立つサービスを提供し、自分のふるさとに貢献できていることに、とても満足しています」と、デンベリさんは語ります。その言葉の通り、彼女は、季節に応じた農業資材を小規模農家に届け、その使い方を直接アドバイスするなど、IMPACTのプロジェクトスタッフが期待した以上の働きをしています。


IMPACTプロジェクトについて
AGRA(※)の出資により、SAA、TechnoServe(TNS)、Farm Radio International(FRI)の3団体が共同運営する3年間のプロジェクト。SAAがリード組織を務める。エチオピア、アムハラ州およびティグレ州の対象県(Wareda)において、小規模農家の収入と食料の安全保障向上に貢献することを目的とする。プロジェクトは、小麦、テフ、トウモロコシの生産性向上と、市場へのアクセス強化を促進するように設計され、アムハラ州およびティグレ州20の県と160の市町村において、対象作物の市場志向型生産を増強している。
アムハラ州におけるIMPACTプロジェクトは、これまで12の農業資材販売店を設立し、合計26人(女性14人)のメンバーが運営に携わっている。これらの活動により、農薬15,000L、野菜の種1,200kg、林業の種150kg、噴霧器1,000台、PICS bag 12,600個、トウモロコシの種10,000kgなど、多く農業資材が22,000人以上の農家に提供された。販売店は、運転資金として、約750万エチオピアブル(187千米ドル)規模の運営を行っている。

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AGRA(Alliance for a Green Revolution in Africa):アフリカ人主導によるアフリカ小規模農家のためのアライアンス。2006年の設立以来、各地のパートナーと協力し、アフリカ特有の農業ニーズに合わせた支援を展開している。
 

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