【学生特派員レポート: vol.2】 「農業現場の課題とSAAの新戦略 ―土壌侵食を例に―」

エチオピア
2021年11月11日
Angacha woredaの農村風景。右手に土壌侵食が確認できる。(2021年10月15日筆者撮影)
Angacha woredaの農村風景。右手に土壌侵食が確認できる。(2021年10月15日筆者撮影)

2021年9月、SAAは、目まぐるしく変化する現場課題を解決し、アフリカにおける持続的な農業生産と発展を実現するために、新しい戦略プラン(2021-25年)を発表しました。本レポートでは、この新戦略の第一の柱『土壌劣化を改善し、生産性を向上するための「強靭かつ持続的な環境再生型農業」』が立案された背景の一つである、エチオピアの土壌侵食問題と今後SAAが取るべきアプローチについて報告します。

そもそもエチオピアは、世界で最も土壌侵食の被害が激しい国の一つです。土壌侵食とは水(主に雨)もしくは風によって土の構造が破壊され、土壌が流出してしまうことを指します。起伏にとんだ地形を持つエチオピアでは、前者(水食)が大きな要因となっています*1。土壌侵食によって引き起こされる問題は、大きく分けて2つあります。まず、オンサイトの問題として、浸食によって土地そのものが崩壊することや、表土が流出することで土壌の肥沃度が低下することなどが挙げられます*1。また、オフサイトの問題としては、流出した土砂による河川の水質汚濁や、下流での土砂の堆積などが挙げられます*1。

土壌侵食の被害はエチオピア全土に及びます。一般的にエチオピアにおける土壌侵食は北部のアムハラ州やティグレイ州、東部のアファール州やソマリ州などが激しい被害を受けているといわれています。しかし、SAAの介入するSNNP地域のAngacha woredaや、オロミア州Ana-sora woredaでもその被害は着実に進行しています。

Angacha woredaの普及員であり、SAAのパートナーでもあるTasama氏によれば、Angacha woredaの土壌侵食は深刻な課題であるといいます*2。彼によれば、これまでも土壌侵食は起きていましたが、降水量の変動が大きくなったことで、近年激しさを増していると感じているそうです。一方で農家側も、SAAや普及機関のプログラムを通してこれらの問題の重大さ認知し始めているといいます。

Angacha woredaのSAA介入農家の圃場すぐ横では小規模な浸食が進んでいた。(2021年10月15日筆者撮影)

現在SAAは、この問題に有効な対策として、等高線栽培、テラス(日本でいう棚田や段々畑)、カバークロップ、マルチング、排水路の整備などを農民参加型の展示圃場(Demonstration Plots)で推進しています。例えば等高線栽培は、等高線方向に播種して作物を栽培することで、作物による壁を作り、土壌や栄養分が流れ出にくくする効果があります*2。また、カバークロップやマルチングは、植生や刈草などの植物残渣によって土壌を被覆することで、土壌の流出防止や保水性向上、有機物の増加などの効果が期待できます*3。また、SAAの土壌侵食に関する取り組みの中にはまだ含まれていませんが、アグロフォレストリーや禁牧、土壌改良剤の投入なども有効な方法です。新戦略に環境保全型農業を明記した今、SAAは現場に最も適したあらゆる方法の可能性を検討していかなくてはなりません。

SAAのDemonstration Plot。テラスやカバークロップ、排水溝などが導入されている。(2021年10月15日筆者撮影)

 

一方で、土壌流出を意識した取り組みはまだ始まったばかりです。実際に農家が技術を導入する際には様々な障壁が存在します。例えば、このような環境保全型の取り組みは、導入効果が短期間では出にくく、導入効果が導入費用より小さいと判断され、農家から理解を得にくいことが考えられます。また、エチオピア特有の問題として、法的に土地が農家ではなく国や教会などのものであるため、導入に対するインセンティブが不足していることや、労働力や資金の不足なども導入が進まない要因です*4。したがって、環境保全型農業を実現するためには、SAAがこの28年に及ぶ支援で築き上げてきた現場との緊密な関係を活用し、迅速かつ正確に課題や障壁を特定しながら、効果的な取り組みを実行していくことが求められています。

私にとって、生産性の向上と環境保全型農業の実現は、ある意味矛盾しているように感じます。SAAが、アフリカを代表する普及機関として、途上国の農家が先進国と同様な成長過程(例えば機械化や化学肥料の投入拡大など)を進んでいた場合に、享受していたであろう機会費用がただ失われるといったことが起きないよう、具体的なプランを検討するべきです。SAAの本部と各国の事務所はまさにいま、この困難な課題を乗り越え、新しい時代の農業支援を実現するべく動き出しています。

高瀨一綺:東京大学大学院農学生命科学研究科

  1. Arid Land Research Center, Tottori University. (2020). Background of the Research. Development of next-generation Sustainable Land Management (SLM) framework to combat desertification. http://www.alrc.tottori-u.ac.jp/slm/en/index.html (Accessed 2021-10-29)
  2. 2021/10/15 Angacha woreda Kerkericho kebleのFTCにてインタビューを実施
  3. 独立行政法人 緑資源機構.(2004). 農地・土壌侵食防止対策技術マニュアル. https://www.jircas.go.jp/sites/default/files/publication/green/green-_-_41.pdf (Accessed 2021-10-29)
  4. Haregeweyn, N., Tsunekawa, A., Nyssen, J., Poesen, J., Tsubo, M., Tsegaye Meshesha, D., ... & Tegegne, F. (2015). Soil erosion and conservation in Ethiopia: a review. Progress in Physical Geography, 39(6), 750-774.

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