【学生特派員レポート: vol.1】 「農業現場の課題とSAAのアプローチ ―小麦さび病を例に―」
エチオピアは、サブサハラアフリカ(SSA)における最大の小麦生産国の一つです。その小麦生産は、多くの国民に食料と栄養を届けています。しかし近年、エチオピアでは小麦さび病が頻発し、穀物生産に重大な影響を及ぼしています。そこで私は、その状況とSAAの対応を確認するために、2021年9月8から9日、SNNP地域のAngacha woreda(Woreda: Zoneの下のエチオピア行政単位)にある二つのKebele(Kebele: 地方における最も小さい行政単位)を訪れ、複数の農家に対する聞き取り調査を行いました。
Shino Funamura kebeleで、SAAのCDP(Community Demonstration Plot)ホストを担うGetachew Erkaroは2020年に小麦さび病の被害を受けました。その結果、小麦収量は2019年の1400kg/haから2020年に1000kg/haまで減少しました(約29%減)。彼はそれまで、2012年に販売された高収量かつさび病耐性のあるOgolcho(ETBW5520)を栽培していましたが、SAAのプログラムのもとさび病への対策として、2018年に販売された、より高収量でさび病耐性の高いDaka(ETBW7638)に転換しました。
SAAはFarmers Training Center(FTC)において、地元の開発機関(Development Agent: DA)と協力しながらこのような小麦さび病耐性のある品種の普及に取り組んでいます。FTCでは、Community Variety Plots(CVP)において、SAAが近年研究機関からリリースされた品種を配布し、農民参加型の品種選抜プログラムを実施しています。このプログラムにおいて、農家らはFTCに定期的に集まり、各品種の生育状況や採用可能性、穀物やバイオマスの重量、病害虫耐性などの特性について、議論し、評価しています。その後、来シーズンの栽培品種を決定します。
小麦さび病の発生を防ぐためには、新品種の導入だけではなく栽培技術や農薬の使用も重要です。そこでSAAは、直播きの条播栽培(列状に種を播く栽培方法:Line planting)や作物保護(収量を減少させる様々な要因に対する一般的な栽培方法:Crop protection)、間作(Intercropping)や総合的病害虫管理(Integrated Pest Management:IPM)を普及しています。農家らは以前、種子使用量が多くなる直播きの散播栽培(種をばらまきする栽培方法:Broadcasting)を用いており、植物個体数過剰を引き起こしていました。散播栽培は植物株間の栄養・光競合によって穀物収量を減らすだけでなく、植物個体群内の湿度が高くなることで小麦さび病の蔓延を助長する可能性があります。条播栽培では、このような問題の発生を抑制することに加え、種子使用量を減らし、生産費を抑えることができます。
Kerekicho kebeleでCDPホストを担うTesema Heramoは、条播栽培でOgolchoのみならず未改良の地元品種を栽培し、2020年に2133kg/haを得ました。これはSAAが支援対象とする農家の中ではかなり高い収量です。彼は現在、条播栽培に加えて、Ogolchoとより病耐性と種子品質に優れる新品種Wane(ETBW6130)を導入し、気候変動に強い農業の実現を目指しています。
農業環境の変化はめまぐるしく、現場の問題を迅速に把握し、対応していくことが求められます。また、一つの技術を普及させるのみならず、問題解決のために様々なアプローチをとることが重要です。このような方法を通して、SAAは小規模農家の収入と栄養状態の改善に貢献しています。
高瀨一綺:東京大学大学院農学生命科学研究科
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Voices from the Field Special Edition 2022
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