パーマガーデンを通して、より豊かな栄養と収入を実現する

エチオピア
2021年9月8日
パーマガーデンを自宅に設置した女性農家(エチオピア オロミア州)
パーマガーデンを自宅に設置した女性農家(エチオピア オロミア州)

背景
家庭菜園は、家庭における食料供給と栄養価の向上、収入と雇用の多様化、女性の地位向上、水・廃棄物管理の改善、生態系への貢献など、様々な可能性を秘めています。しかし、エチオピアにおいて家庭菜園は、これまであまり活用されてきませんでした。エチオピアの作物の大半が天水農業で生産されているのと同様に、家庭菜園の多くも雨季にだけ利用され、乾季は休閑地となってしまいます。

パーマガーデンは、この問題を解決するため、雨水を貯められるよう庭を設計し、周年栽培を可能にします。この方法を用いれば、主に女性が担い手になる家庭菜園も、わずかな技術や資金、地域で手に入る資材を利用して、高品質の作物を継続的に栽培することができます。また、菜園が自宅近くにあるため、女性が子供の面倒を見ながら畑仕事を行うことができるというメリットもあります。


パーマガーデンとは
パーマガーデンとは、家族が年間を通じて豊かな食生活が送れるよう、家の周りに設置する常設の小規模菜園のことです。パーマガーデンのアプローチは、パーマカルチャー(permanent+agriculture 永続可能な農業)と有機的集約栽培(バイオインテンシブ農法)を組み合わせたものです。パーマカルチャーは、自然のエコシステムを参考に、永続可能な農業生産をデザインする手法で、バイオインテンシブ農法は、土壌や作物の健全性、生物多様性に焦点を当て、持続可能な農法で最大限の収量を得る手法です。

 


パーマガーデン設置のための研修の様子(エチオピア オロミア州)


パーマガーデンの設置
パーマガーデンは、土壌に不足しがちな水分を効率的に取り込み、保持するとともに、5Sプロセス(Stop - Slow - Sink - Spread - Save )を通じて、過剰な水分は効率的に排水する仕組みです。菜園を起伏あるデザインにすることにより、水の流れをせき止め(Stop)、緩やかにする(Slow)、水が土壌にゆっくりとしみ広がり(Sink+ Spread)、蓄えられる(Save)ことが可能になります。

パーマガーデンを作る手順は、次の通りです。(1)菜園に適当な場所を選び、レイアウトを決定。利用可能な資源を検討する。(2)栽培エリアを準備する(4mx4m程度の大きさから始めると良い)。(3) 水流をコントロールするための土手を作る:斜面からの水流れを止め、方向を変えるため深さ30cm幅30cmのくぼみを斜面を横切るように掘る。くぼみの一方の端に、余分な水を受け止めるための幅50cm深さ50cmの穴を掘る。土手の内部に1m幅の栽培スペースと40cmの通路を作る。 (4) 水路と貯水穴が壊れないよう、土手の上面と側面に、多年生の葉物野菜や草を植える。(5)その周りにもう一つ同じ栽培スペースを作る。 (6) 各保水穴の周りに「ギルド」と呼ぶ果樹等の共生できる樹を植えてスペースを確保するとともに、作物を保護する。(7) 防犯と防風対策として、ガーデンの周りに植樹する。



パーマガーデンの管理について指導を行う普及員(エチオピア オロミア州)


SAAによるパーマガーデンの取り組み
エチオピアにおけるパーマガーデンは、多くのNGOによって推進されており、その大半が成功を収めています。SAAは、持続可能な環境再生型農業の推進の一環として、家庭菜園での作物生産性を高めるため、パーマガーデンの取り組みを始めました2020年には7つの地区(woreda)と9つの農民組合(kebele)でパーマガーデンの手法が実演され、農家や農業普及員など計273人(内女性176人)が能力向上研修を受講しました。研修を受けた農家は自身のパーマガーデンを設置しました。フダンソウ、ニンジン、レタス、赤かぶ、キャベツ、ケールなど、様々な野菜を育てています。


パーマガーデン導入の考察
パーマガーデンの導入は、小規模農家の栄養状態と収入(特に女性の収入)を向上させると同時に、気候変動への適応力・レジリエンスを高めることが確認されました。「パーマガーデンにより、従来の菜園よりも狭い土地でより多くの作物を長期的に栽培できるようになった」と農家や農業普及員は言っています。収穫の増加と長期化が可能になったのは、土壌の保水力と肥沃度の向上の恩恵によるものです。パーマガーデンを実践した農家は、市場で野菜を販売することにより、800.00ブル(19米ドル)から2,200.00ブル(51米ドル)の範囲で収入を得ています。平均で1,280.00ブル(30米ドル)。また、収穫期間の長期化により、週に50~100ブルを節約しながら、最大で8カ月間収穫した野菜を食べることができたのです。


課題
一方、パーマガーデンの設置には多くの労力を要します。これは最初の導入時の大きな課題で、一度菜園が設置された後は、それほどの労力を要しません。この問題を解決するためには、地域における共同作業を活用することや季節ごとの労働力を農村コミュニティーが上手く管理していくことで対処することができます。一方、水に関しては、中期的には十分確保できるものの、設立初期のガーデンが年間を通じて水を確保することへの課題はあります。この問題は、雨季に屋根の雨水を集め、乾季に補助的な灌漑として使用すること等で解決することができます。


総括と提案
パーマガーデンの導入により、小規模農家が地域で手に入る資源を利用し、家庭で多様で栄養価の高い作物を、年間を通して生産することが可能になりました。農家は、収入と食糧・栄養安全保障の向上により、様々な危機に対応しうる生計を営むことができるようになります。
さらに、パーマガーデンは、持続可能な環境再生型農業を推進するにあたり重要な3つの目標に貢献しています。1.生態系への貢献:水資源の保全、地域の廃棄物を利用した土壌肥沃度の向上、土壌浸食の減少、生物多様性の向上により、天然資源と生態系を保全・回復。2.経済への貢献:投入コストの削減、生産の増加・多様化による所得の向上、食の多様化による栄養状態の改善。3.社会への貢献:農家のキャパシティービルディング、共同学習の機会増加、女性の地位向上など。

このように、パーマガーデンは、持続可能で環境再生可能な、栄養に配慮した、市場志向型の農業を柱としたSAA新戦略を実施する上で、非常に効果的な実践方法であり、広く普及されることが期待されています。

 


参考文献: "Permagarden Technical Manual" published by the Technical and Operational Performance Support (TOPS) Program (2015).

 

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