【開催報告・動画公開】TICAD9公式サイドイベント③:環境再生型農業でアフリカの食料システムを革新する
2025年8月22日10:00–11:30、横浜・パシフィコ横浜にて、ササカワ・アフリカ財団(SAA)は、 国際農林水産業研究センター(JIRCAS) 、アフリカ農業研究フォーラム(FARA)と協力し、第9回アフリカ開発会議(TICAD9)公式サイドイベントとして「環境再生型農業を通じたアフリカの食料システムの変革:若者と農家を支える戦略・政策・連携」を開催しました。
開会の挨拶を行うササカワ・アフリカ財団(SAA)アミット・ロイ会長
冒頭の挨拶でSAAのアミット・ロイ会長は、土壌健全性が食料安全保障と包摂的成長の基盤であること、若者と女性を中心に据えた変革の必要性、そして研究・普及・人材育成をつなぐ国際連携の重要性を強調しました。さらに、アフリカ土壌イニシアティブ(SIA)の進展に加え、日本財団の支援によりJIRCASが実施するTERRA Africaといった日本とアフリカの協力の事例、そしてSAAとアフリカ農業普及フォーラム(AFAAS)との連携といった地域内でのパートナーシップにも言及しました。
議論のハイライト
本サイドイベントは、昨年5月に開催されたアフリカ肥料・土壌健全性サミットのナイロビ宣言やアフリカ土壌イニシアティブ(Soil Initiative for Africa (SIA))の進展を背景に、「土壌健全性と若者雇用を柱とした食料システム変革」をテーマとしました。イベント冒頭には、小泉進次郎 農林水産大臣に挨拶をいただき、続いて国際農業研究協議グループ(CGIAR)のIsmahane Elouafi 業務執行最高責任者が基調講演を行いました。
「若者と農業の未来に向けた日本の貢献」について話す小泉農林水産大臣
1. 科学に基づく環境再生型農業(RA)の必要性
基調講演でCGIARのIsmahane Elouafi 業務執行最高責任者は、気候変動や土壌劣化に直面するアフリカにおいて、現地の自然条件に適応した科学的知見に基づく環境再生型農業(RA)技術の普及が、農家のレジリエンス強化と持続可能な増産に不可欠であると強調しました。 RAは農家が自ら工夫できるローコストかつレジリエントな農法であり、土壌水分保持や炭素隔離など多面的な効果が期待される点が注目されました。さらにElouafi氏は、こうした科学技術の普及を加速するためには、研究投資と国際連携の拡大が不可欠であると訴えました。
「科学に基づく環境再生型農業」について講演するIsmahane ElouafiCGAIR業務執行最高責任者
2. 人材育成と普及体制の強化
David Nielson博士(元世界銀行 農業経済専門官)はアフリカ農業の持続的成長には「土壌健全性の回復」と「人的資本の強化」が不可欠と指摘しました。SIAの実効性を担保するには、農業普及・教育の両面で人材育成投資を拡充し、研究成果を農家レベルに橋渡しする普及システムを強化する必要があると述べ、特に、若者や女性が農業バリューチェーン全体で活躍できる環境づくりが、農村の雇用創出と定着に直結すると強調しました。
また、Elizabeth Nsimadala氏(東アフリカ農家連盟 代表)は、自らのリーダーとしての経験を交えつつ、青年と女性の参画が農業の変革を推進する原動力であることを述べ、雇用や投資拡大につながった事例を紹介しました。さらに、南南協力や日本の協同組合モデルから学ぶことの意義も示されました。

写真左から:David Nielson 元世界銀行 農業経済専門官、Elizabeth Nsimadala 東アフリカ農家連盟 代表
3. 大陸規模の国際連携の重要性と政策枠組み
Wole Fatunbi博士(FARA 研究部長/SIA事務局)は、アフリカの農地の広範な劣化の現状を示し、SIAはその反転を図る大陸規模の戦略であると述べました。ナイロビ宣言に基づき、2034年までに「劣化地の30%回復」「70%の小規模農家への助言提供」などを実現する目標が提示されました。さらに、SIAの実効性ある実施には、アフリカ連合委員会(AUC)やアフリカ連合開発庁-アフリカ開発の た め の 新 パ ー ト ナ ー シ ッ プ(AUDA-NEPAD)、アフリカ農業研究フォーラム(FARA)、アフリカ農業普及フォーラム(AFAAS)、SAAに加え、各国政府・民間・金融機関・大学が連携する多層的な体制が必要であると強調しました。また米国開発庁(USAID)の解体や欧州諸国のODA削減といった外部環境の変化を踏まえ、日本の貢献への期待も改めて示されました。
SIAについて説明するWole Fatunbi FARA 研究部長
パネル討論では、モデレーターを務めたMel Oluoch博士(SAA 戦略パートナーシップ事務所長)の進行のもと、Lilian Lihasi博士(AFAAS 事務局長)が普及システム改革の課題を提示し、Stella Kabiri博士(SAA 環境再生型農業リード)が農家主体でのRA導入の実践事例を紹介しました。さらにPapa Saliou Sarr博士(JIRCAS 上級研究員)は、日本とアフリカの研究機関連携が土壌健全性の改善を加速し得ると述べました。
パネリスト:左からStella Kabiri SAA 環境再生型農業リード、Papa Saliou Sarr JIRCAS 上級研究員、Lilian Lihasi AFAAS 事務局長、Mel Oluoch SAA 戦略パートナーシップ事務所長
連携の前進:MOU署名と今後
イベント中、JIRCASとFARAが包括的連携協定(MOU)を締結し、研究と普及の連携強化がさらに進みました。
国際農研(JIRCAS)の小山修理事長(右)とアフリカ農業研究フォーラム(FARA)のAggrey Agumya理事長(左)によるMOU締結
閉会にあたり、ササカワ・アフリカ財団の鈴木周一理事長は、健全な土壌こそが食料安全保障、気候変動への適応、持続可能な成長の基盤であると強調しました。さらに、若者と女性が農業変革の中心的な担い手であること、そしてSIAや「アフリカ肥料・土壌健全性行動計画(2023–2033)」といった枠組みを具体的な行動につなげる重要性を訴えました。最後に、議論で得られた知見やアイデアを政策・プログラム・農家支援などの実践に生かしていくよう呼びかけ、**「健全な土壌こそ繁栄するアフリカの鍵である」と結びました。
閉会の挨拶を行うササカワ・アフリカ財団(SAA)鈴木周一理事長
まとめ
本イベントを通じ、土壌健全性の回復と若者雇用を軸に据えたフードシステム改革がアフリカの持続可能な成長に不可欠であることが再確認されました。土壌改良には中長期視点が求められ、農家主体の試行錯誤と小集水域をベースとしたコミュニティ単位での連携が成功の鍵となります。RA、普及体制強化、人材育成、国際協力を一体的に推進することで、気候変動下でもレジリエントな農業と食料安全保障の実現が可能となります。
TICAD9は、SIAのフォローアップと日本の新たな役割を議論する好機となりました。今回得られた知見を基に、今後も多様なステークホルダーが連携し、アフリカ農業の持続可能な未来づくりに向けて取り組みを深化させていきます。
■外部メディア掲載
本イベントに関連し、鈴木周一理事長のインタビュー記事が以下のオンラインメディアに掲載されました。
・Pan African Visions:「Empowering Africa’s Farmers: Innovation, Partnerships, and Sustainable Growth」
・AGRITECH Middle East & Africa:「Empowering Africa’s Smallholder Farmers through Innovation and Inclusive Partnerships」
国際農研プレスリリース「アフリカ農業研究フォーラムと包括的連携協定を締結」
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