国際共同研究プロジェクト「TERRA Africa(テラ・アフリカ)」との協働 と現場での取り組み ~アフリカ版環境再生型農業(AfRA)の主流化に向けて~

ニュース
2024年2月2日
テラ・アフリカ・プロジェクトのキックオフ会議(於:ガーナ共和国北部タマレ市)
テラ・アフリカ・プロジェクトのキックオフ会議(於:ガーナ共和国北部タマレ市)

TERRA Africa(テラ・アフリカ)始動

国際農林水産業研究センター(国際農研)は、日本財団の助成のもと、アフリカに適した環境再生型農業の構築を目指す国際共同研究プロジェクト「テラ・アフリカ(TERRA Africa:Technology Establishment for Regionally-adapted Regenerative Agriculture in Africa)」を昨年4月に開始しました。同プロジェクト(2023年~2027年)は、ガーナを主たる研究拠点とし、ガーナ国立開発研究大学、サバンナ農業研究所、不耕起農業センター、東京農業大学、京都大学、Degas株式会社等が参画し、アフリカにおける多様な農業生態系において土壌の健全性の観点から、「アフリカ版環境再生型農業(African type of Regenerative Agriculture: AfRA)」を実現するための各種技術やその社会実装に必要な普及方法の開発を目指しています。

テラ・アフリカ・プロジェクトとササカワ・アフリカ財団

ササカワ・アフリカ財団(SAA)は、活動拠点であるエチオピア、ナイジェリア、マリ、ウガンダで2021年以降、環境再生型農業の技術実証・普及を行ってきました。具体的には、過去四半世紀以上にわたり世界的に取り組まれてきた保全農業(Conservation Agriculture: CA)や総合的土壌肥沃度管理(Integrated Soil Fertility Management: ISFM)の様々な手法を、現地の多様な気候・土壌条件を踏まえて試行してきました。SAAでも、1990年代にガーナ、モザンビーク、マラウイ、エチオピアで減耕起を普及していましたが、その定着にあっては改良種子、化学肥料、除草剤等の農業投入財のアクセス等、複合的な課題がありました(詳細はこちら)。現在に至っても、CAやISFMの各手法の効果は必ずしも科学的なエビデンスに裏付けられておらず、そのことが今回始動したテラ・アフリカ・プロジェクトの背景の一つとして挙げられます。

SAAは、プロジェクトの企画・立案段階から国際農研と意見交換を行い、同プロジェクトで今後開発・検証される土壌・栽培管理技術や普及方法を、その活動対象国において順次実証・展開していく予定です。その手始めとして2023年度は、国際農研が既に確立済みの有用技術である①低品位リン鉱石利用法(焼成/堆肥化)、②耕地内休閑システム(Fallow Band System: FBS)、③農業経営計画モデル(Builder of Farming Model: BFM)の実証試験に向けた研修を、9月にガーナで開催された同プロジェクトのキックオフ会議の終了後、国際農研研究者からSAAスタッフに対して実施しました。

実証試験に向けた研修に参加するSAAスタッフ

アフリカ保全農業の先駆者からの学び

SAAは、テラ・アフリカ・プロジェクトの推進に協力するだけでなく、環境再生型農業の研究や実践を行うさまざまな研究・実施機関との交流も進めてきました。なかでもアフリカにおける保全農業(CA)普及の先駆的存在の一つである「不耕起農業センター(the Centre for No-Till Agriculture: CNTA)」との連携を深めており、昨年はガーナのクマシ市近郊にある同センターにおいて、CA農法の理論と実践についてSAA4ヵ国の技術スタッフ(計12名)が2日間の集中研修を受けました。「ミスター・マルチ」の異名を持つボア所長が強調したのは、「農地を可能な限り裸にしないこと(通年マルチ)」と、雑草をも活用する「農地で得られる有機資源の最大活用」の2点に集約されますが、その他にも創意工夫を凝らした様々なCA技術の実践例を学ぶことができました。


雑草マルチとCNTAボア所長


不耕起用の播種器の実習

CNTAでの研修を終えて     

現場でのRA普及の取り組み~エチオピアにおける耕畜連携RA推進モデル~

CNTAでの研修成果は早速現場に活かされており、エチオピアでは小麦農家に対し、マルチ資材を確保できるよう収穫時の高刈り(ハイカット)のアドバイスを始めました。高い位置で穂を刈り取ることにより圃場に残る茎葉部のバイオマスを増やし、倒伏させてマルチ資材として活用する(土壌流亡防止)とともに土壌有機物を増加させることを目的としています。ただ、酪農を含む有畜複合農業を基本とするエチオピアの小規模農家にとって、小麦ハイカットの導入は家畜飼料用の小麦わらが減ることを意味します。そこでSAAは、同時に牧草栽培の導入を行うことで、ハイカットによる小麦わら(飼料)不足を補うことを試みています。また、栄養価の高い牧草を給餌することは、農家にとって貴重な現金収入源である乳製品(乳・チーズ)の品質向上を通じて農業所得を高め、同時にSAAが導入した小麦改良品種がもたらす収量増加と相まって、農家の生計向上に貢献することが期待されます。

この、エチオピアで試行中の「耕畜連携RA推進モデル」(図1参照)は、農家の持続的な生産性向上と土壌の健全性の維持・回復をWin-Winで目指す、アフリカ版環境再生型農業(AfRA)のプロトタイプの一つして推進できるものと考えています。

図1:エチオピアにおける耕畜連携RA推進モデル (出所:SAA顧問作成)


RA農法を導入した小麦農家


牧草栽培の展示圃場とホスト農家


乳牛への牧草給餌

農家がRA農法を採用するインセンティブは何か

アフリカの小規模農家に対するRA推進の課題として、マルチングや堆肥施用といったRA農法は、時として従来より多くの労働力・コストを必要とする一方、目に見える成果、つまり収量増や収益増に即座に結びつきにくいことが挙げられます。農家にRA農法を継続的に採用してもらうには、上記耕畜連携RA推進モデルのように生産性や収益性の向上に直結する農業技術(例えば小麦改良品種や牧草栽培)をRA農法と併せて導入し、同農法採用の動機(インセンティブ)とすることが効果的と考えられます。

最初はRA農法に懐疑的だった農家も、何シーズンか経た後には、土壌の健全性が高まることによりもたらされる便益(例えば肥料利用効率の改善によるコストカット)について徐々に理解を深めることが期待されます。その際、SAAがウガンダやナイジェリアで試行している、籾殻等の農業副産物由来のバイオ炭の施用は、酸性土壌の改善や土壌微生物叢の活性化を通じて、この「気づきのプロセス」を加速する可能性があります(図2参照)。ササカワ・アフリカ財団は、アフリカの多様な農業生態系に配慮したアフリカ版環境再生型農業(AfRA)の主流化を目指して、これからも様々な取り組みを行っていく所存です。


図2:RA農法を採用した農家が「土壌の健全性」の気づきに至るプロセス(出所:IITA KenyaによるプレゼンをもとにSAA顧問作成)

以上

SAAによる1990年代ガーナにおける保全耕起 普及の取り組み(英文)

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