IFPRI-SAA共同開催・UNFSSプレ・イベント「2030アジェンダ推進における農業普及の役割とは」開催報告

ニュース
2021年8月9日

8月6日、SAAと国際食糧政策研究所  (IFPRI)は、国連食糧システムサミット(UNFSS)に向けたプレ・イベントとしてオンライン対話を共同開催いたしました。このイベントでは、農業普及アドバイザリーサービスがSDGsにどのように貢献できるのか、これまでのアフリカの現場に根差した活動経験をもとに議論を繰り広げました。参加者は、それぞれの専門知識を共有し、サステナブルでレジリエンス、栄養に配慮した市場志向型の農業を促進するため、効果的な普及モデルに関する提言をまとめました。


気候変動等あらゆる課題の中で、アフリカの増加する人口の食糧需要を満たすためには、効果的で安全、健康的でサステナブル、栄養に配慮した食糧システムの構築が必要不可欠です。そのためには、地域コミュニティーに対して改良農業技術を提供したり、農業バリューチェンのステークホルダーに対し、技術的ノウハウの習得を支援したり、強力なパートナーシップや制度構築がカギとなります。また、教育と農業普及アドバイザリーサービスは、農家が必要な知識や技術を身につけ、現代の食糧システムのニーズに対応する上で、引き続き重要な役割を果たすでしょう。現地政府の限られた人的・経済的リソースを補うためにも、「適切な普及モデルを見極めることが極めて重要である」ということが、今回のオンライン対話から見えてきたキーメッセージでした。

Dr. Teunis van Rheenen(IFPRI-Director of Business Development and External Relations)は、冒頭のスピーチで、このオンライン対話が9月開催予定の国連食糧システムサミットという重要なイベントにリンクしていることに触れ、IFPRIと日本の協力関係を強調しました。Dr. Amit Roy(SAA副会長)は、SAAの歴史的背景やアフリカにおける食糧システムへの貢献、SAAの新5か年計画について説明しました。


次に、IFPRIの主任研究員2名(Dr. Kristin DavisとDr. 竹島広之)とSAAのリージョナル・ディレクターDr. Mel Oluouchにより、持続可能性、栄養、市場アクセスといった観点において効果的な農業普及を行う意義が、研究や現場での経験を踏まえ、発表されました。Dr. Davisは、書籍「Agricultural Extension, Global status and performance in selected countries」の概要を解説。国や地域レベルでの農業普及システムの評価や、対象国(SAAの重点国であるエチオピアとウガンダを含む)における農業普及アプローチの実績について述べました。Dr. Oluochは、過去35年間にわたるSAAの貧困削減や食糧安全保障への貢献、また、農業普及員の育成や改良技術と優れた農法の実演等、SAAのバリューチェーン・アプローチを紹介しました。竹島氏は、ウガンダで実施したIFPRI-SAAの共同プロジェクトを紹介。市場志向型農業振興(SHEP)アプローチを通じて、難民や小規模農家に対し、「作って売る」から「売るために作る」市場志向型農業に意識変革を起こした経験を共有しました。


パネルディスカッションでは、エチオピアとウガンダのパネリストが、持続可能性、栄養、マーケットの分野で農家を教育・支援するための農業普及の役割について、それぞれの見解を述べました。エチオピア農業省 農業普及局局長のYenenesh Egu氏は、エチオピアが多元的で需要主導型の普及サービスに取り組んでいることを説明しました。 Yenenesh氏は、参加型の普及アプローチの重要性について、「SAAのようなパートナーと密接に協力することで、子どもの慢性栄養不良による発育阻害は56%から37%に低下した(国レベル)」と述べました。


Dr. Fentahun Mengistu(SAAエチオピアのカントリー・ディレクター)は、食糧・栄養安全保障を確保するためには、どのような能力が農家と農業普及員に求められているかを考察しました。農家の人々が置かれている状況を十分に理解すること(市場情報が不足している、栄養よりも収量に目を向けている等)の重要性を述べました。農家向けに推奨する研修テーマの例として、比較優位に基づいた販売のための生産、農業技術、気候変動への対応、土壌管理、栄養学を含む食に関する知識習得などを挙げました。更に、既存の農業普及員のスキルアップと共に、新規普及員の補充を適切に行う必要性も強調しました。また、国際開発パートナーに向け、グローバルなバリューチェーンに焦点を当てるのではなく、地域に根差した食糧システムに対する長期的な資金提供の重要性を述べました。


Dr. Patience Rwamigisa(Asst. Commissioner Agricultural Extension Coordination, Department of Agricultural Extension and Skills Management, 農業畜産水産省, ウガンダ)は、アフリカの小規模農家が直面している課題として、市場や貸付へのアクセス、収穫後処理、食品の安全性を挙げました。また、持続可能な土地管理や、農業普及と研究機関の連携の必要性も指摘しました。Dr. Rwamigisaは、いくつかの試験的な取り組みが継続されていないことに触れ、「農業普及においては、一時的なプロジェクト単位のアプローチから、持続的なプログラムベースのアプローチへと移行する必要がある。関連機関への投資が非常に重要だ」と述べました。

SAAウガンダのカントリー・ディレクターであるDr. Roselline Nyamutaleは、「食糧・栄養の安全保障を確保するために何ができるか」という質問に対し、技術導入の引き金となるマーケットの強化、栄養価の高い農作物の増産、土壌の健全性と食品安全性の維持、インクルーシブネスへの対応、収穫後処理と農産物加工、農業普及アドバイザリーサービスへの資金提供の強化、農業普及員の労働環境改善等を挙げました。Dr. Nyamutaleは、「ウガンダの農業を変革するには、農業普及員が不可欠だ。現在、農業普及員と農家の比率は1:1800。e-プラットフォームを利用し、農業普及アドバイザリーサービスやマーケット情報を速やかに提供する方法を検討することが急務である」と述べています。

また、パネルディスカッションに続いて、3つのテーマで分科会が行われ、農業普及活動が、(A)持続的な環境再生型農業、(B)栄養に配慮した農業、(C)市場志向型農業、をどのように促進しうるか議論されました。

パネルディスカッションと分科会での主要な提言は次の通りです。
農家は食糧システムの中心にいなければいけない。また、農業変革は一つ一つの圃場で起きるべきである。農業バリューチェーンにおける最も弱い部分は農業普及であり、変革が必要である。キャパシティビルディングは、プロジェクト別アプローチからプログラム的アプローチへ移行する必要がある。農家個人の研修にとどまらず、組織全体の能力を高める必要がある。それを実現する環境の整備が必要。政策を戦略に転換し、戦略に必要な資金を保証する。農業普及員には、改良技術の移転にとどまらない広い視野を持つよう促しつつ、負担をかけすぎないように注意する。バリューチェーン・アプローチの重視。フランチャイズ・プログラムへの若者の参加。農業のデジタル化。偏りをなくした多様な作物の消費を促すには、対象コミュニティの社会的習慣に対する十分な配慮が必要である。


その後、SAA北中理事長が、IFPRIをはじめとする全ての参加者に、非常に有意義な議論がかわされたことに感謝の意を表しました。北中理事長は、農業普及アドバイザリーサービス(AEAS)への提言として、地域レベルでの食糧システムへの注力、政府系普及サービスと民間企業との連携強化、デジタル化促進による展開、実施者と研究者の関係強化の重要性を強調し、SAAとIFPRIの連携を評価しました。


最後に、Dr. Suresh BabuHead of Capacity Strengthening, IFPRI)が、IFPRIとSAAに感謝するとともに、日本政府のIFPRIへの支援を評価しました。そして、今回の対話で得られた提言は、9月の国連食糧システムサミット(UNFSS)に伝達されることが再確認されました。

IFPRI Event Page

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