開催報告:TICAD8公式サイドイベント(第一弾)「健全な土壌とアフリカの食料安全保障:―環境再生型農業の可能性―」
2022年8月5日(金)、SAAはJIRCAS(国際農林水産業研究センター)と共同で、TICAD8 公式サイドイベントの第一弾として、「健全な土壌とアフリカの食料安全保障:―環境再生型農業の可能性―」を開催いたしました。
オンラインで開催した本イベントには、日本やアフリカをはじめ、アメリカや欧州など世界各国から330名を超える参加があり、環境再生型農業に対する世界的な関心の高さが伺えました。
SAAのMel Oluoch戦略パートナーシップ事務所長が司会進行を行い、冒頭の開会の辞では、SAAのRuth Oniang’o会長とJIRCASの小山修理事長が、講演者、パネリスト、視聴者を含む全ての参加者を歓迎しました。様々なグローバル課題が交錯する現代において、アフリカの土壌の健全化に注目した環境再生型農業を主題とした本イベントの意義が述べられ、同イベントを機に、より多くの関係機関とのパートナーシップが強化されることに期待を寄せました。
基調講演では、土壌学の世界的権威であるオハイオ州立大学 Rattan Lal教授(土壌学)は、サブサハラ以南の1haあたりの肥料の投入量が、中国は400kg、インドでも200kgであるのに対し、わずか17kgに過ぎないことを指摘し、アフリカで「緑の革命」が起こらなかった理由として、土壌の低肥沃度が十分考慮されなかったことを指摘し、現在のウクライナ戦争による肥料価格の高騰が状況を悪化させていると指摘しました。一方、環境再生型農業は土壌再生の鍵であるとし、被覆作物と不耕起栽培、コンポスト等により、炭素を土壌に織り込んでいくことで、収奪するだけの従来のシステムから、自己再生するエコシステムの構築が可能になるとした上で、それが短期的な収量向上につながるとは限らないため、農家の移行にはインセンティブが必要と指摘し、そのために、政府や民間企業など様々なアクターを巻き込む必要があると述べました。
また、ワーゲニンゲン大学のKen Giller教授は、農学的知見からアフリカにおける気候や土壌、社会経済的条件の多様性を十分に理解した上で、それぞれの地域にあった土壌肥沃度管理の重要性を指摘しました。
その後、アフリカの現場からの報告として、エチオピアやガーナにおける取り組み(Fentahun Mengistu氏、Kofi Boa氏)、土壌健全性モニタリングのアプローチ(Leigh Winowiecki氏)についてそれぞれ発表頂きました。また、研究報告として、JIRCASのプロジェクトリーダー中村智史氏より、耕地内休関システム(Fallow Band System)に関する報告をいただきました。
パネルディスカッションでは、JIRCASの情報プログラムダイレクター飯山みゆき氏がモデレーターを務め、Kofi Boa氏(アフリカ不耕起農業センター(CNTA) ディレクター)、Edmundo Barrios氏(FAO 作物生産・保護部門農業担当官)、Tilahun Amede氏(AGRA レジリエンス・気候・土壌責任者)、Sani Miko(SAAナイジェリア事務所長)の参加により、議論が展開されました。立場の異なるパネリストの議論からアフリカの農家が直面する現状と課題、普及アプローチ、科学的アプローチがより明らかになりました。
最後に、SAA北中真人理事長が、本日の参加者に感謝の意を表し、持続可能でレジリエントな農業を推進するためには、土壌の健全性が最も重要であり、来年以降、サブサハラ・アフリカ地域におけるRA研究事業を日本財団の支援を受け、JIRCASと共同で推進していくことを明らかにしました。
SAAは、今回のセミナーで得られた教訓やエビデンスを踏まえ、JIRCASをはじめとする様々なパートナーと協力し、「アフリカ型」環境再生農業の定義とアプローチを検討していきます。アフリカの食料安全保障の実現に向け、グローバルな課題に臆することなく、国・地域・農地によって異なる農業環境に適したオーダーメイドのアプローチを実現していきます。
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"Walking with the Farmer"
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